【医師監修】我慢汁で妊娠する？妊娠する確率は？

セックスやマスターベーションといった性行為において、ペニスの先から透明な液体が出ることがありますが、一般的にはこれを「我慢汁」と呼びます。

医学では「カウパー腺液」と呼ばれる我慢汁ですが、その呼称が与える印象から「精液の一部」として解釈し、我慢汁で妊娠すると考えている人も多いことでしょう。

一方、我慢汁では妊娠しないという声もあります。実際のところ、我慢汁で妊娠する可能性はあるのでしょうか？泌尿器科医がよくある質問や疑問に回答するかたちで分かりやすく解説します。

我慢汁とは

質問者：我慢汁とは何ですか？

先生：我慢汁とは、男性の尿道球腺（前立腺と尿道海綿体の間にある器官）で分泌され、尿道口から出てくる無色透明の分泌液のことで、正確にはカウパー腺液または尿道球腺液と言います。我慢汁が分泌されるタイミングとしては、性的な刺激を受けてペニスが勃起状態になったときで、射精が近づくと尿道口から無自覚に出てきます。射精前に出てくることが多いため「（精液の）先走り汁」と表現されることもあります。

質問者：我慢汁は精液の一部ということですか？

先生：いいえ、厳密には我慢汁と精液は違います。どのような違いがあるかと言うと、我慢汁は尿道球腺から分泌される液体であるのに対し、精液は前立腺と精嚢（せいのう）から分泌される分泌液に精子が混ざったもので、ごく簡単に言えば中身が違います。我慢汁の生成段階において精子が混ざることはありません。従って、我慢汁は精液の一部と考えることは正しい解釈とは言えないのです。

質問者：我慢汁はなぜ出るのですか？

先生：我慢汁には2つの意味があると考えられています。ひとつは「精子を保護する」役目を果たすことで、もうひとつは「性交時における性器同士の摩擦を低減させる」ことです。我慢汁は、糖たんぱく質成分の弱アルカリ性という特徴があります。一方、精子が通る男性器の尿道や、女性の膣内は弱酸性であることから、酸の性質によって精子が傷ついてしまいます。このような状況を防ぐ意味で、我慢汁によってアルカリ性の状態に近づけ、精子を保護している訳です。また、我慢汁は粘性を伴うことから、性器同士の摩擦を低減する役目もあると考えられています。

ポイント：

• 我慢汁とは尿道球腺から分泌される分泌液のこと
• 我慢汁と精液は中身が違う
• 「精子の保護」と「性交時の摩擦低減」の役割がある

我慢汁で妊娠するのか？

質問者：我慢汁は精液と違うのであれば妊娠しないのではないですか？

先生：いいえ、妊娠する可能性はあります。理由は、射精前に精管膨大部（射精前に精子が一時的に蓄えられる場所）から、精子の一部が尿道口に向かって排出されることがあるためです。我慢汁と精液は、ともに同じ尿道および尿道口を通ります。つまり、我慢汁と精子は排出されるまでの段階で混ざっても不思議ではないのです。我慢汁が出るタイミングは、射精に近い状態であることから、我慢汁と精子が混ざる確率は高く、結果として妊娠する可能性が生じます。

質問者：我慢汁で妊娠するのを防ぐにはどうすればいいですか？

先生：我慢汁が膣に接触しないことがポイントです。これを実現するにはコンドームを着用するのがよいでしょう。ペニスの挿入に限らず、指に付着したものが膣内に入ってしまうケースもあるため、妊娠を望まないのであれば、十分に注意してください。

質問者：我慢汁で妊娠するケースはどんな時ですか？

先生：射精の有無や、そのタイミングにかかわらず、コンドームを使用しないで挿入した場合です。俗に言う「外出し（コンドーム未使用時の）」や「生挿入」などは、我慢汁によって妊娠するかもしれません。また、この他に性交類似行為として「素股」や「手淫」といったことがきっかけとなり、我慢汁が膣内に入って思わぬ妊娠につながる可能性があります。性交の途中からコンドームを着用したり、コンドームを着用し直したり（裏表を誤った時など）することも妊娠のリスクが排除できないため気を付けましょう。

質問者：我慢汁を抑えることは可能ですか？

先生：我慢汁は抑えられないと考えてください。我慢汁は性的興奮を得た際に、尿道球腺から自然に分泌される一種の生理現象です。我慢したり、無理に抑えようとしたりするものではありません。

質問者：我慢汁が出ない場合でも妊娠するのでしょうか？

先生：前述したように、我慢汁は自分の意思で制御できるものではありません。我慢汁が出ないからといってコンドームを着用せずに挿入したり、膣外射精を続けていたりすると、無意識に我慢汁が出ていて妊娠する可能性は十分にあります。

ポイント：

• 我慢汁で妊娠する可能性はある
• 我慢汁と精液は性質が異なるものの、我慢汁に精子が混ざる可能性は高い
• コンドームの着用によって我慢汁による妊娠は防げる

我慢汁で妊娠する確率

質問者：どれくらいの確率で妊娠すると考えるべきですか？

先生：我慢汁によって妊娠する確率を示すことは難しいものの、我慢汁で妊娠することを膣外射精法と仮定した場合、22%の確率で避妊に失敗し、妊娠するとされています。この確率は、公益財団法人医療科学研究所が発行する「医療と社会」に掲載された研究論文(*)がエビデンスです。一般的に、膣外射精法はコンドームを使用しないで挿入し、射精を膣外で行う行為であることから、性交時に我慢汁が膣内に入る可能性が高くなります。我慢汁が膣内に入り込みやすい膣外射精法による性交だと、およそ5回に1回の割合で避妊に失敗し、妊娠する可能性があるということです。

質問者：我慢汁が出ない男性だと妊娠する可能性が低いというのは本当ですか？

先生：我慢汁の有無やその量を、妊娠の確率と結び付けて評価することは難しいため真偽は判断できません。しかし、我慢汁が出ないひとつの要因として、男性ホルモンである「テストステロンレベルが低い」ことが考えられます。テストステロンレベルが低いと、精巣をはじめとする生殖内分泌器官の衰えが進行したり、働きが不十分になったりする可能性があり、結果として精子の質（精子の量、運動率、正常形態率など）が悪くなるかもしれません。つまり、我慢汁が出ない、あるいは量が少ないことは、テストステロンの分泌量が低下している兆候と捉えることもできるため、妊娠しにくい可能性を否定できないでしょう。LOH症候群（加齢男性・性腺機能低下症）診療手引き(*)のなかにおいても、テストステロン低下に伴う生殖機能を含む多臓器機能障害が指摘されています。

質問者：我慢汁で妊娠した場合、赤ちゃんに障害が出るのは本当ですか？

先生：この話はインターネット上でよく見るものですが、医学的なエビデンスはありません。我慢汁（カウパー腺液）によって妊娠した赤ちゃんに障害が生じるというのは、医学的根拠に乏しく、あらぬ誤解や偏見を生む可能性があるため、不用意に信じたり、広めたりすべきではありません。

ポイント：

• 膣外射精法に失敗して妊娠する確率は22%
• 我慢汁が出ないことと、妊娠する確率が低いことの可能性は否定できない
• 我慢汁で妊娠した場合の胎児に障害が生じるという話には根拠がない

この記事の監修医師

総院長、医学博士

葉山芳貴

経歴

平成14年 聖マリアンナ医科大学 卒業
平成20年 大阪医科大学 大学院 卒業
平成22年 大手美容形成外科 院長 就任
平成27年 メンズサポートクリニック開設
平成28年 メンズサポートクリニック新宿 院長就任
平成28年 医療法人清佑会 理事長 就任

資格

医師免許（医籍登録番号：453182）
保険医登録（保険医登録番号：阪医52752）

新宿院 院長

鳥羽洋輔

経歴

平成31年 札幌医科大学医学部医学科 卒業
令和3年 美容皮膚科クリニック 勤務
令和4年 MSクリニック 勤務

資格

美容外科医
医師免許（医籍登録番号：559547）