男性であれば一度は「精子の質」について考えたことがあるのではないでしょうか。とくに、子どもが欲しいと思っている男性であれば、ご自身の精子の質は気になるところです。
昨今、不妊の原因は男性にもあるという考えが定着しつつあることから、女性だけでなく男性も、不妊や妊活に取り組む際に精子の質をしっかり理解しておくべきでしょう。
そこでこの記事では、泌尿器科の医師が男性に向けて「精子の質」について、よくある疑問に回答する形で分かりやすく解説します。
この記事の目次
質のいい精子とは
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質問者:質のいい精子とはどんな状態ですか?
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先生:質のいい精子とは、精液量、精子濃度、運動率、そして正常形態率の4つの要素において、正常値の基準を上回るか否かが目安にされています。この基準として広く採用されているのが、世界保健機関(World Health Organization:WHO)の見解です(*)。WHOは、質のいい精子の基準を適宜見直していますが、2024年時点では以下が正常値の基準として用いられています。
- 精液量:1.4mL
- 精子濃度:精子の数が1mLあたり16,000,000以上
- 運動率:54%
- 正常形態率:4%
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質問者:質のいい精子だとどのようなメリットがあるのでしょうか?
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先生:「自然妊娠の確率が高くなる」ことが挙げられます。「自然妊娠の確率が高くなる」ことは、妊娠する確率が低いとされる奇形精子(精子頭部の変形や、精子尾部の鞭毛の活動性が低い精子のこと)の割合が少なく、正常形態の精子が多い状態のことです。つまり、精子の質が自然妊娠の確率に影響を及ぼす訳です。
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質問者:どのようにして質のいい精子が作られるのでしょうか?
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先生:日本がん・生殖医療学会(*)によると、精子は陰嚢内にある精巣(睾丸)で、1日あたり1億5,000万個から2億7,000万個作られるとあります。精巣にある精細管内で、セルトリ細胞(精細胞に栄養などを送る)や、精細胞(精子になる細胞の集団で精祖細胞とも言う)が、自己増殖または精子への分化を繰り返します。こうやって出来た精子細胞が、オタマジャクシのような姿に変形し、精子になります。一連の増殖や分化、そして変形といった流れにおいて、十分にホルモンが供給されることで質のいい精子になると言われています。一方、正常形態の精子は約4%とされていることから、質のいい精子はそもそも少ないということも知っておくとよいでしょう。
ポイント:
- 質のいい精子は、精液量、精子濃度、運動率、正常形態率の4要素で決まる
- 質のいい精子だと自然妊娠の確率が上がる
- 精子全体のなかで質のいい精子は約4%
精子の質が悪くなる原因
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質問者:精子の質が悪くなる原因は何ですか?
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先生:2016年の研究結果によると「酸化ストレス」が大きな要因として考えられています(*)。酸化ストレスとは、ヒトの体の細胞を傷つける活性酸素やフリーラジカルと呼ばれる酸化物質が多い状態のことです。酸化物質が多くなり過ぎることで、皮膚の劣化をはじめ、癌や心臓病、さらには精子の質が悪くなるといった様々な悪影響が体全体で起こります。
酸化ストレスの要因は、喫煙、飲酒、肥満、ストレス、そして運動や睡眠不足といった、日常的な生活習慣が深く結びついています。つまり、日々の生活習慣が悪ければ、必然的に精子の質も悪くなりやすい訳です。
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質問者:精子が酸化ストレスを受けるとどうなるのですか?
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先生:精子のDNAや軸索(神経細胞の長い突起部分)が損傷すると言われています。ごく簡単に言うならば、奇形精子が増えることです。DNAが損傷すると、精子の運動性能低下、受精率の低下、受精卵の発育不良などが起こり、妊娠しても流産に至る可能性も否定できません。
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質問者:年齢は関係ありますか?
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先生:あります。一般的に、加齢にともなって精子の質が悪くなる可能性が高いと言われています。先の研究結果(*)においても、年齢の増加に伴って、精子が酸化ストレスの影響を受け、精子のDNA損傷が増加したとあります。また、動物においても高齢の動物の精子は、若い動物の物よりも酸化ストレスを受けやすく、酸化ストレスに対抗するための抗酸化活性も低いことが分かっています。このようなエビデンスから、精子の質が悪くなる原因として加齢も挙げられています。
ポイント:
- 精子の質が悪くなる原因は酸化ストレス
- 酸化ストレスは様々な生活習慣が要因
- 加齢に伴って精子の質が悪くなる可能性がある
質のいい精子の見分け方
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質問者:どうすれば質のいい精子かどうかを見分けられますか?
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先生:精液検査を受ける必要があります。精液検査とは、精液検査を実施している医療機関において、摂取した精液の精液量、精子濃度、運動率、そして正常形態率を調べることです。これにより、無精子症や奇形精子症、さらには精索静脈瘤や精路閉塞といった、泌尿器科で治療可能な症状かどうかが分かります。
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質問者:精液検査を受けるのは抵抗があります。
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先生:その場合は、精液の見た目を確認してみてください。精液の量が少なかったり、色が薄かったりする場合は、正常値を下回っているかもしれません。精液の見た目だけでは良し悪しの判断はできませんので、心配な場合は精液検査をおすすめします。
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質問者:オナ禁すれば質のいい精子になりますか?
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先生:いいえ、逆効果になると考えてください。ある研究結果(*)によると、最低でも2日に1回の頻度で射精することが、精子の質が良いと分かっています。オナ禁によって射精しなければ精子の質が向上するという考えは誤りです。
精子の質を高めるためにできること
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質問者:質のいい精子にするにはどうすればいいですか?
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先生:基本的な取り組みとして「生活習慣の改善」そしてホルモン剤や漢方、サプリメントといった薬物療法などがおすすめです。精子の質が悪くなる要因は「酸化ストレス」と述べたように、日々の生活のなかで酸化ストレスを招く習慣を見直すことが不可欠となります。具体的には、喫煙や飲酒、運動不足、睡眠不足、ストレスといったことの改善に取り組んでください。また、補助的な取り組みとして「男性ホルモン補充療法」や「漢方」そして「サプリメント」といった薬物療法もあることを知っておきましょう。
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質問者:手術すれば治ると聞いたことがあります。
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先生:恐らくそれは「精索静脈瘤手術」のことでしょう。精索静脈瘤とは、陰嚢から上に伸びる精管や血管、神経、そしてリンパ管が束になっている「精索(せいさく)」で、血液が逆流して瘤(こぶ)になる病気です。一般男性の約15~20%、男性不妊症患者の約30%に認められ、精巣機能の悪化、つまり精子の質を下げる原因と言われています。帝京大学医学部付属溝口病院の石坂氏らがまとめた「精索静脈瘤と男性不妊症(*)」の中で、術後の精液所見の改善率は57%、妊娠率が36%と紹介されており、高い治療効果が認められています。
ポイント:
- 精子の質を調べるには精液検査が必要
- 質のいい精子は、生活習慣の改善と薬物療法の総合的な取り組みが大切
- 精索静脈瘤が原因なら手術で改善される可能性がある
まとめ
質のいい精子かどうかは、精液量、精子濃度、運動率、正常形態率、さらには総運動精子数などが基準として用いられ、基準を上回るかどうかが大切です。
不妊で悩む男性や、ご自身の精子の質を知りたいという場合は、精液検査をおすすめします。
合わせて、日頃からできる対策として、生活習慣の改善や薬物療法といったことにも取り組むようにしましょう。
MSクリニックでは、ED治療、包茎手術・早漏治療・長茎術・亀頭増大術などから、AGA薄毛治療など、男性美容まで男性のお悩みに向き合うメンズクリニックです。
症例豊富な医師をはじめ、看護師も全員が男性ですので、どうぞお気軽にご相談、ご来院ください。
この記事の監修医師
葉山芳貴
経歴
平成14年 聖マリアンナ医科大学 卒業
平成20年 大阪医科大学 大学院 卒業
平成22年 大手美容形成外科 院長 就任
平成27年 メンズサポートクリニック開設
平成28年 メンズサポートクリニック新宿 院長就任
平成28年 医療法人清佑会 理事長 就任
資格
医師免許(医籍登録番号:453182)
保険医登録(保険医登録番号:阪医52752)
鳥羽洋輔
経歴
平成31年 札幌医科大学医学部医学科 卒業
令和3年 美容皮膚科クリニック 勤務
令和4年 MSクリニック 勤務
資格
美容外科医
医師免許(医籍登録番号:559547)